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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和41年(ワ)70号 判決 1968年5月07日

原告

原田勇

被告

株式会社三共商会

主文

被告は原告に対し金一五八、九六五円及びこれに対する昭和四一年六月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を被告の負担とし、その余はこれを原告の負担とする。

この判決は、原告において金二〇、〇〇〇円の担保を供するときは、原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金六四八、二七五円及びこれに対する昭和四一年六月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、次の通り述べた。

一、原告は昭和四〇年九月二六日午前九時四五分頃原付第一種自転車に塔乗して福岡県嘉穂郡稲築町大字平国道踏切の北方約二〇〇米の地点にある三叉路附近に差しかかつたところ、原告の後方より小型三輪貨物自動車を時速約五〇キロメートルで運転して来た被告会社の使用人訴外滝野進は、原告の右自転車を認めたが、減速しないまま右自転車の右側を追い越そうとした際、自動車の後部で原告を自転車もろ共はねとばしたため、原告は約一三米前方に転倒、右示指第一、第二指骨等開放性骨折、右側頭部、左前額部、右下腿、同踵部挫創等全治約三ケ月を要する傷害を受けた。

二、被告会社は、砕石、セメント、コンクリートの製造販売等を目的とする会社であつて、右小型三輪貨物自動車の所有者でかつこれを自己のため運行の用に供するものであるから、自動車損害賠償保障法第三条により原告が前記事故によつて受けた損害を賠償する義務がある。

三、原告が右事故により受けた損害は次の通りである。

(イ)  原告が将来得べかりし利益を失つたことによる損害。

原告は本件事故発生前山野炭坑で機械運転工として稼働していたところ、昭和四〇年四月の収入は金一九、九八九円、同年五月のそれは、金一八、六八六円、同年七月のそれは金二〇、九七九円であつた(同年六月は田植などの関係で収入が特別に多額であつたから右計算には同年六月分を計上しないで、同年七月分を計上する)から、以上三ケ月分の収入は計金五九、六五四円で、一ケ月の平均収入は金一九、八八四円、一年間のそれは金二三八、六〇八円となる。ところで原告は明治四〇年一〇月二八日生で事故発生当時満五七年一〇月であつたから、本件事故による傷害を受けなかつたならば尚すくなくとも八年間は稼働可能であり、その間毎月前記の程度の収入をあげることが可能であるということができるから、その間の収入高は金一、九〇八、八六四円となるところ、右事故による傷害のため右手を使用することができなくなり、その労働能力の喪失率は五六パーセントであるから、前記金一、九〇八、八六四円の五六パーセント即ち一、〇六八、九六四円は原告が得べかりし利益を失つたことによる損害であるというべきところ、今これを一時に請求するにつき年五分の割合による中間利息を控除するための係数〇、七を乗ずれば金七四八、二七五円となる。而して原告は得べかりし利益の喪失による右損害に関し自動車損害賠償責任保険の保険金六〇〇、〇〇〇円の支払を受けてこれに充当したから残額は金一四八、二七五円となる。

(ロ)  精神的苦痛に対する慰藉料

原告が受けた傷害の部位程度、その他諸般の事情に鑑み、被告が原告に対し支払うべき慰藉料の額は金五〇〇、〇〇〇円が相当であると信ずる。

四、そこで、原告は被告に対し以上計金六四八、二七五円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四一年六月二二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、答弁として、原告主張の事実中、その主張の如き自動車事故のあつたことは認めるが、原告の受けた傷害の部位、程度は知らない。原告の受けた損害の額は否認すると述べ、抗弁として、本件事故の発生には、被害者である原告の過失がその一因をなしているものである。即ち原告は、本件事故発生直前三叉路の方向に右折しようとしていたものであるが、加害車両の運転者である訴外滝野進が原告に接近した際三、四回警笛を吹鳴したので、原告は後方を振り向き右車両を自車の後方七、八米の地点に認めたのであるから、三叉路の方向に右折するについては、十分注意してむしろ一旦左側に待機し、後車の通り過ぎるのを待つて徐々に右折すべきに拘らず、かかる注意義務を怠つて漫然右折せんとしたため、ついに接触して、本件事故の発生を見るに至つたのであるからかかる原告の過失は、本件損害賠償の金額を定めるにつき斟酌せらるべきである。よつて原告の本訴請求に応じ難いと述べた。

〔証拠関係略〕

理由

一、原告が昭和四〇年九月二六日午前九時四五分頃原付第一種自転車に搭乗して、福岡県嘉穂郡稲築町大字平国道踏切の北方約二〇〇米の地点にある三叉路附近に差しかかつたところ、原告の後方より小型三輪貨物自動車を時速約五〇キロメートルで運転してきた被告会社の使用人訴外滝野進が、原告の右自転車を認めたが、減速しないまま右自転車の右側を追越そうとした際、自動車の後部で原告を自転車もろ共はね飛ばしたため、原告は約一三米前方に転倒し傷害を受けたことは当事者間に争がない。

二、〔証拠略〕を綜合すれば、原告は右事故により、右示指第一、第二指骨等開放性骨折、右側頭部、左前額部、右下腿、同踵部挫創等全治約三ケ月を要する傷害を受け、現に右手腕関節、母指、示指、中指、薬指、小指の各指関節の強直を来し、手部の使用不能であることが認められる。

三、被告会社が、砕石、セメント、コンクリートの製造販売等を目的とする会社であつて、右小型三輪貨物自動車の所有者でかつこれを自己のため運行の用に供するものであることは被告の明かに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきである。従つて被告会社は、自動車損害賠償保障法第三条により、原告が前記事故により蒙つた損害を賠償すべき責任があるといわなければならない。

四、そこで原告が本件事故により蒙つた損害の額について検討する。

1  原告が将来得べかりし利益を喪失したことによる損害。

(イ)  原告が山野炭坑の機械運転工として稼働しており、本件事故発生前三ケ月間の原告の平均収入がすくなくとも原告主張の通りであり、その一ケ月間の平均収入が金一九、八八四円であつたことは原告本人の供述によりこれを認めることができる。

(ロ)  原告は、前記傷害を受けたことにより、どの程度労働能力を喪失したかについて立証しない。然しながら労働基準法施行規則は別表第二において身体障害の等級を定めていることは明らかであり、これに関連して労働省労働基準局長の昭和三二年七月二日付通牒により各身体障害等級に応じて労働能力の喪失率を定めていることは当裁判所に顕著な事実である。而して本件においてもこれらの一般的な基準にあてはめた結果を資料として原告の労働能力の喪失の程度を判断することが妥当であると考えられる。

原告が本件事故による傷害のため、右手の五指につき使用不能となつたことは前段認定の通りであるところ、今この身体障害を労働基準法施行規則別表第二身体障害等級表に照らしてみると同表の第七級に該当することが明らかである。 ところで労働省労働基準局長から各都道府県労働基準局長宛の昭和三二年七月二日付通牒の別表第一労働能力喪失率表によれば障害等級の七級該当者の労働能力喪失率は五六パーセントであることが認められる。以上認定の事実に原告本人の供述等を綜合すれば、原告は前記傷害の結果五六パーセントの労働能力を失つたものと認めるのが相当である。

(ハ)  〔証拠略〕によれば、原告は明治四〇年一〇月二八日生れで、本件事故発生当時満五七年一〇月であつたことが認められるところ、同人が事故発生直前まで炭坑の機械運転工として稼働していた前認定の事実によれば同人は通常の健康体であつたことが推認できるところである。而して厚生省大臣官房統計調査部公表の昭和四〇年簡易生命表によれば、年令満五七才の健康な日本人男子の平均余命は一七・三八年であることが認められる。これらの事実によれば原告はなおすくなくとも八年間はさきに(イ)に於て認定した程度の収入をあげ得べき労働が可能であることは、吾人の経験則上肯定できるところである。

(ニ)  かくして原告が本件事故がなかつたならば、その後八年間にあげ得べかりし収入の額は金一、九〇八、八六四円となるべきところ、この額に原告の労働能力の喪失率一〇〇分の五六を乗じて得る金一、〇六八、九六四円が原告が得べかりし利益を失つたことによる損害の総額であるということができる。原告は今これを一時に請求するのであるから年五分の割合による中間利息を控除した現価を算出するための係数〇・七を乗ずれば金七四八、二七五円となる。もつとも右計算方法はホフマン式計算法中最も簡便な方法である単式の計算法によつたものであり、その係数〇・七も正確には〇・七一四二八五七一………であり、単式とは別に複式の計算法も行われており、複式にも年別のものと月別のものとがあり、後のものほど正確であり、請求するものにとつては有利であるということは計算上明らかである。然しながら本件において原告は単式の計算法により、しかも係数は小数一位までの〇・七とし、それ未満の数字は省略して算出した数額をもつて、原告の蒙つた消極的損害の額として主張しているのであるから、原告の右請求額の限度において、これを基礎として判断することとする。

(ホ)  そこで被告の過失相殺の主張につき判断する。

〔証拠略〕によれば、訴外滝野進は時速約五〇キロメートルで本件現場附近に差しかかり、約二五メートル前方道路中央線附近を徐行しつつ、同一方向に進行している原告搭乗の単車を認め、これを追越そうとして三、四回警笛を吹鳴したところ、原告がこれに気付いて後方を振り向いたので滝野は、原告の右側を通つて追越しにかかつたところ、ついに前認定の通り、接触事故を惹起するに至つたこと、原告は事故直前右現場の前方丁字路交差点を右折しようとしていたものであることが認められる。ところで原告は右地点において右折せんとするに当つては方向指示器又は手信号などにより右折の合図をして後行車にこれを認識させるべき注意義務があるのに、原告がかかる合図をしたことを認めるに足る証拠はない。

然らば本件において被告の支払うべき損害賠償額を決定するに当つては、原告の右過失を斟酌すべきものである。かくして被告の責を負うべき損害の額は原告の得べかりし利益の喪失額として前段に認定した金七四八、二七五円の一〇分の六即ち金四四八、九六五円であると認めるのが相当である。因みに原告は本件事故による傷害につき入院治療費等計金三一二、八〇〇円を要し、内金三〇〇、〇〇〇円は自動車損害賠償責任保険の保険金より支弁され、残金一二、八〇〇円は被告会社より支弁されたことが、〔証拠略〕によりこれを認めることができるところ、これらの費用を要したことによる損害については過失相殺をしないのが相当である。

2  原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料について。

以上に認定した原告の傷害の部位、程度、治療期間、後遺症、その経済生活に及ぼす影響、加害者及び被害者の過失の程度その他本件に顕れた諸般の事情を斟酌して、被告が原告に支払うべき慰藉料の額は金三五〇、〇〇〇円が相当である。

以上1、2の合計額は金七九八、九六五円となるところ、

〔証拠略〕によれば原告は自動車損害賠償責任保険の保険料六四〇、〇〇〇円の支払を受けたことが認められるからこれを控除すれば残額は金一五八、九六五円となる。

五、然らば被告は原告に対し金一五八、九六五円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四一年六月二二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用し、仮執行免脱の宣言を付するのは相当でないからこれを付しないこととして、主文の通り判決する。

(裁判官 川淵幸雄)

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